Mission5:たまにはこういうのも悪くない……かもしれんな。
ふむ……だいぶ機能が戻ってきたな。武器のほうも修復完了、か。
そう言って、私は右手の武器を持ち上げる。実弾と高密度重粒子刃、そして、高密度重粒子盾を備えたマルチツールだ。とは言うものの、剣や盾が実体ではなかったりと、これもやはり、私と同じで実験的な意味合いが強い。まぁ、どう言おうがこれが私の唯一の武器になるわけだが。
そういえば、今日はやけに静かだが……ぐらたんはどこいった?
背部の武器ラックに武器を固定。ガシャコガシャコと歩き出す。
自分の部屋からダイニングに入って、静かな訳がやっと分かった。
ん……。
……なるほど。ソファで寝てれば静かなわけだ。エプロンつけっぱなしってことは、家事に疲れて寝たってところか。
しかしまぁ、気持ちよさそうに寝ているな。ここは起こすのも悪いから、退散するに限る――
だ、駄目なのですよ宇部さん……
ピタッ。
返した踵がその言葉で瞬時に止まった。
……私?
そんな……カキ氷はブルーハワイじゃなくて。ああ……そんなにかけちゃ……だからタンスは桐のほうがいいって……
……どんな夢を見てるんだ、どんな。
あはは……宇部さんそんなに青汁ばっかり飲んじゃ……死んじゃいますよー……?
私青汁で死ぬのか!? というか何故に笑顔!?
くー……んにゃ……
……こいつ、普段一体どんなことを考えて……いや、夢に理屈を求めるほうが間違っているか。
んん……宇部さん……宇部、さぁん……
しかし、なんでこいつはこうも私を呼んで……ん?
気づいた。声色がさっきと違うことに。
ぐらたんの顔を覗くと、そこには
……泣いている、か。
目じりに、うっすらとだが涙の粒があった。
ん……んく……う……
次第に涙の粒は大きくなる。そして、それは頬を伝って私の足に落ちる。
その水滴を、私はしばらくじっと見つめていた。見つめて、涙を指ですくって、また眺めて。
今度はそれを掌に握りこんだ。決心とともに。
大丈夫だ……私はここにいる。恐ろしいことは何一つない。だから、安心しろ。
寝ているぐらたんに言葉をかけ、さらに手を握ってやる。そうすると、ぐらたんはすがるように握り返してきた。ギュっと、力強く。
ん……んん……くー……。
……気が落ち着いたか。
生体センサーを稼動。鼓動は正常。脳波も正常。リラックスした状態だ。
世話のかかるヤツだ……まぁ、これぐらいならたいしたことはないが。
もう大丈夫だろう。そう判断した私はぐらたんに毛布をかけ、今度こそ睡眠の邪魔をしないように部屋を出た。
――1時間後――
あ、あのっ!
ん? どうした一体。
自室でフレキシブル装甲の変化パターンを新規設定していた私の元に、ぐらたんが申し訳なさそうに入ってきた。
顔は俯いているし、なんともモジモジとしている。
どうしたと言うんだ。用件があるならさっさと言え。
あ、あの、そのですね……。
あ、ありがとうございます……なのです
それだけ言って、ぐらたんは高速の動きでドアを閉める。遠ざかる足音も、パタパタとせわしない。
……。
……起きていたのか。そういえば、センサーでそこの辺りまで探ってはいなかったが。
あまりの驚きで、変化パターンの構築作業をセーブせずに中断してしまったが……まぁいいか。
とりあえず、この何とも言えない余韻に浸ることにしよう。
たまにはこういうのも悪くない……かもしれんな。
――Mission5:complete――