Mission5・Another:……本当に、ありがとうございましたなのです。
 宇ー部さーん!ほらほらここ! カキ氷大会やってるですよー!!
 急くな急くな。ったく、はしゃぎすぎだぞ。夏祭りだとはいえ限度と言うものが……っとうお!?
 おそいですよ〜! ほらほら、早くいきましょうなのですよ!

 私は宇部さんの手を取って会場前へとズンズン進んでいきました。お祭り魂が燃えるのですよ!

 ……何だこれは? 『カキ氷早食い大会』? また拷問チックな催し物を……
 というわけで宇部さん、頑張ってきてくださいなのです。
 は? なんで私が――

 『おーっと、新しい挑戦者かぁ!? しかも鋼のぼでーを持つナイスメン!! これは期待がいやがおうにも高まってくるってもんだぁー!!』

 いや待てそこの司会! 私は出るなどと一つも――おいお前ら、何故私の腕をっておおおおおおぉぉぉぉぉぉ……

 いってらっしゃいなのです〜

 黒光りする肌の、すきんへっどまっちょさんが宇部さんを連れて行くのを、私は満面の笑みで手を振りました。

――30分後――

 ガガ……ゴ……<エラー。エラー。緊急出力で自己修復開始>
 ぶはっ! ……ぜはー、ぜはー、ぜは……
 宇部さんブルーハワイなんか選んじゃ駄目なのですよ。青いから相乗効果で余計寒く感じるのです。あと、せっかく桐のタンス選べたのに普通のタンス選んできちゃ駄目なのですよ。売るもよし、防虫効果で使うもよしなのですよ。
 知るかっ! というか全部勝手にあのボディビル軍団に押し付けられただけだ!! なんなんだあのスタッフは!?

 夏祭り名物その1・「小粋なスタッフ」ですよ。笑顔が眩しいって結構評判なのですよ?
 なんだそれは……。しかし、排気ダクトに恐ろしい量のカキ氷詰めおって。危うく動作不能になるところだったぞ。
 こういうときは青汁が聞くんだ。軽く2ガロンほどな。というわけでそこの屋台のオヤジ、青汁2ガロン頼む。

そう言って、宇部さんは青汁を顔の横の穴から飲みだしました。

 あははは、宇部さん飲みすぎですよ。体が風船みたいに膨れ上がってるじゃないですかー。そんなに青汁ばっかり飲んでると死んじゃいますよー?

 楽しい。宇部さんとあってからは毎日が楽しくて、お腹が捩れそうで……
 そんなことを思っていたら、唐突に。


 ……ほえ? 真っ暗なのです。
 これも催し物の一つなのですか? 宇部さ――

 横を向いたら、そこにいるはずの宇部さんは何故かいなくて――

 ……宇部さん? あれ、これって……

 なんだか、ひどく嫌な空気がするのです。しっかりと立ってるのに、地面がどこなのか分からなくて、ひたすらに真っ黒で――。

 一人……一人、なのですか……。

 ずっと昔、宇部さんが来る前は家にはずっと一人で。いつも、いつも……。

 そんなことを考えてたら、背筋がいきなりゾクっときて。後ろを振り向いたら、なんだか黒くて大きなモヤモヤが私に迫ってきていました。
 なんだか、ひどく嫌だったのです。

 や……に、逃げないと……。

 私は走りました。でも、後ろのもやもやは離れなくて、むしろ近づいてきて。それに伴って、嫌な気分も大きくなってきました。

 嫌……嫌なのです……っ。

 息が苦しくて、足ももつれてきました。もう、心は嫌な気分でいっぱいで――

 嫌! 宇部さん、宇部さん……宇部さあぁ――――――――ん!!

『どうした?』

 その時、いきなり声が聞こえてきました。後ろから聞こえた声は、宇部さんの声にひどく似ていました。
 同時に何かが弾けるような音がして、恐る恐る後ろを向いてみたら……

 何をそんなに泣いている? 腹でも壊したのか?

 そこには、何もなかったように宇部さんがいて。
 だから、私は思わず

 宇部さ――――ん!!
 うお!? い、いきなりジャンプで飛び込んでくるな!
 怖かったです! 怖かったですよっ!! また一人で、宇部さんもいなくなって、私、私……!

 錯乱気味の私の頭に、ポン、と優しく何かが置かれました。宇部さんの体に顔をうずめてて見えませんでしたが、宇部さんの手だということは何となく分かりました。

大丈夫だ……私はここにいる。恐ろしいことは何一つない。だから、安心しろ。
 あ……

 そういって、宇部さんは頭をなでなでしてくれました。なんだかすごく気持ちがいいのです。

 ふぁ……ん……
 落ち着いたか?
 ……。
 どうした?
 あ、あの……まだ気分がよくないみたいで……もっとなでなでしてもらえますか?
 ん、そうか。

 宇部さんは希望通り、ずっと頭を撫でてくれました。
 本当は宇部さんに会ったときからもう大丈夫だったのですけど、嬉しかったのでちょっとウソをついてみたのです。

 んみー……。
 ……すまんかったな。少々遅れた。
 全然いいのですよ。宇部さんが来てくれて、ぐらたんすごく嬉しかったのです。
 でも……もし遅れたって思っているのなら、その分甘えさせてもらってもいいですか?
 ん……構わんよ。
 ん――っ♪

 宇部さんの体をぎゅってして、顔をうずめてすりすり。宇部さんは嫌な顔せずずっと頭を撫でててくれます。

 んー……

 そうしたら何だか安心してきたみたいで、だんだん心が落ち着いてきて――――



 ん……

 そこで、ぐらたんは目が覚めました。
 いつの間にか毛布がかかっていて、それがふかふかとして気持ちいい……

 毛布?

 ……! 

 ガバっと跳ね起きてすぐにダッシュ。目指すは宇部さんの部屋。
 一気に入ろうかと思ったのですけど、さっきのことを思い出して思わず躊躇してしまいます。
 ちょっとの間深呼吸して、ゆっくりとドアを開けるとやっぱり宇部さんがいました。

 あ、あのっ!
 ん? どうした一体。

 宇部さんは、何だか作業中のようでした。
 何だか素知らぬ振りしてますけど、やっぱり……。

 どうしたと言うんだ。用件があるならさっさと言え。


 あ、あの、そのですね……。

 宇部さんが急かしてきたので、思わずビックリしてどもっちゃいました。なんて言っていいのか分からなくて、でも、言わなきゃいけないことがあって。
 すごく大変だったのですけど、やっとのことで「それ」を口に出しました。

 あ、ありがとうございます……なのです

 それだけ言ったら、恥ずかしくて即座に部屋から出て行きました。
 出る前ちょっとだけ宇部さんの表情が見えたのですが、驚いてるってことはやっぱり……。

 (ね、寝顔とか泣き顔とか、恥ずかしいとこ見られたですよ〜〜!)

 その日、ぐらたんは宇部さんの顔を直視できませんでした。すごく恥ずかしくて心臓ドキドキだったのです。でも……

 ……本当に、ありがとうございましたなのです。
 

――Mission5・Another:complete――