Mission2:……これは、もう始まってるのか?

 <自己修復レベル・イエローゾーンに到達。最低活動可能域への回復を確認。起動・開始>

 ブゥゥ……ン。
 エンジンが本格的に動き出し、次いで、多目的視覚モジュールに光が灯る。

 む……状況チェック、開始。屋内と判断。情報不明な生体反応1、敵機0。
 ……ここは……? どうやら一般的な民間の家屋のようだが。

 レーダーでは分からない視覚的な情報を得るため、辺りを見回す。たんすにベッドに机があって、他にも可愛らしい置物やぬいぐるみがある。どうやら、女性の寝室らしいが……

 あ、起きたのですか?

 前方、たんすの隣にあるドアが開き、女性の声が入ってきた。姿が見えると、そこにいたのはさきほどぶつかりそうになった人間だった。

 (どういうことだ? 何故私はここにいて、この人間が声をかけてくる?)

 考えていても仕方ない。だから、実際に問うてみた。

 はい? ここがどこで、何であなたがここにいるのか、ですか?
 うむ。面識があるわけでもないのに、何故私をここに連れてきた?
 ここは私の家なのですよ。で、あなたがボロボロだったので、つい家に連れてきちゃいました。
 でも不思議ですねー。最近のロボットさんは、修理しなくても直っちゃうのですか。
 いや、私には自己修復機能があるからな。よっぽど破壊されなければ、大抵はどうにでもなる。

 しかし、この喋り方といい……これはもしや、「良い人」というヤツだろうか。その回答に対して、CPUが「可能性・60%」と返答を返す。

 (とりあえずは安全か……しかし、これからどうしたものか)
 そういえば、あなたは何て名前なのですか?
 む?
 名前ですよ名前。ロボットさんは名前、ないんですか?
 (ロボットに名前とは……なんというか、これは、天然という奴か? まぁ、ロールアウトして幾ばくも経ってない私には判断がつかないが)
 P-spw1-p・ウーベンゲルトだ。何と呼んでもらっても構わん。
 宇部さんですかー。私の名前は……そうですね。ぐらたんです。これからもヨロシクなのです。
 ……待て。
 はい?
 色々と突っ込ませてもらうが、宇部とは何だ? 後何故名乗る? そして、これからもヨロシクとはどういうことだ?
 好きに呼んでいいといったのは宇部さんじゃないですか。それに、これから一緒に暮らす相手に名乗らないのは失礼なのですよ。
 は? ……私とお前が、一緒に?
 そですよ?
 待て待て待て。どこをどうなったらいきなりそういうことになるんだ。
 だって宇部さん、なんだか狙われてるみたいじゃないですか。危ないから一緒に居たほうがいいのですよ。
 む……。

 確かに、私は狙われてる。身を隠せる場所があるのならあるに越したことはない。アイツ……ぐらたんと言ったか。わざわざ用意してくれるというのなら、その好意を有効に使わない手はないだろう。それに、

 (人間と契約しないことには、セーフティがかかって性能をフルに発揮できん。そのためにも、利用させてもらうか……)
 了解した。ぐらたん……だったな。とりあえずよろしく頼む。
 はいなのです! こちらこそよろしくなのです!!

 こうして、私こと宇部とぐらたんは出会い、共同生活を送ることになった。そして、これが(悪い意味で)波乱の日々を過ごす幕開けとなろうとは、この時の私は夢にも思ってなかったのだった……。

 そうそう。コーヒー持ってきたのですよ。はい、どうぞなのです。
 いや、どうやって飲めと。

(……これは、もう始まってるのか?)

――Mission2:complete――