Mission0:行くぞ……全てを知るために!
――自己診断プログラム・スタート――
声が、聞こえる。二人……片方は渋く、片方は穏やかだ。
暗いせいか、顔は見えない。
ふむ、これが例の試作機か……。
はい。ペネトレイト計画の第1号機、『P-spw1-p ウーベンゲルト』です。『自立式多目的人型弾』という新カテゴリに区分されるだけあり、運用も相当特殊のようですね。
ふむ。さすが弾丸だけはあるな。……これが全体図か。
なかなか精悍な顔つきをしている。いい面構えだ。……しかし、想定より、大分重量が減っているな? 全長1m20cm、重量が60kgとはな。常識をはるかに超えている。
材質に関して、技術的ブレイクスルーを果たしたようです。この「フレキシブル装甲」ですが、とある一定の電磁波によって、硬度が変わる特殊素材を使用。その素材にナノマシンを封じ、CPUからの信号によって様々な姿を作り出す。硬度が変えられるので、非常に柔軟な行動が出来ることでしょう。この装甲のおかげで、外部の原子と内部の余剰装甲を破壊部分に応用することが可能であり、自己修復機能を持つに至りました。
なるほどな。うちの技術陣は優秀だな。昇給を考えておこう。
恐らく、あちらから断ると思いますが。職人気質の人が多いですから。
かもしれんな。ちなみに、例の件はどうなっている?
仰せの通り、新機軸の技術を多く取り入れておきました。感情機能と、重粒子式・盾剣銃一体型のマルチツール。腕部に次元湾曲武器ラックに収納できるようにしてあります。他にも、ホログラフィー投影機能に座標・位相ベクトル発生装置などと言った昨日を盛り込んであります。
軍やその他機関のデモンストレーション用も兼ねているからな。これぐらい豪奢なほうが、食いつきがいい。
……昨今、このデザインや機能に関して、あなた自らが趣味で決めた、という噂があるのですが。
む、そ、そんなことはないぞ? まあ、8割がた間違いではないが。
……また例の「カッコイイほうがいい」、ですか。ふくらはぎがないあたり、どうもおかしいとは思ったのですが。フレキシブル装甲がなければ、歩行困難なデザインですよ、これは。技術長は、逆に作り応えがあると言って嬉々としていましたが。
いや、まあそれだけではない。お前の体もいい加減作ってやらねばな。それで、あえて急がせてあるのだ。いい女には、いい体が必要条件だろう?
……知りません。もう……この人は。
まあ、そう怒るな。これでも一応褒めたつもりなんだが。
分かってますよ。でも、そんなこと言われたら怒れないじゃないですか。
はっは、まあ、こういうのもいいだろう。……さて、CPUに私を基にした思考ルーチンを組み込んだ我が兄弟。ペネトレイトシリーズの始まりよ。お前は、どんな夢を見せてくれる?
――自己診断、完了――
……まだメモリに残っていたか。いい気分ではないな、しかし。
近いな。半径5kmに敵機を補足。気分に浸る暇もない、か。
……嫌な、記憶だな。しかし
この記憶だけで終わるわけにはいかん。私は……世界を、自分を、自由を知るために。むざむざとやられるわけには、いかんのだっ!
轟っ!
隠れ家として使っていたボロ屋を、バーニアを吹かすという行為を持って切り捨てる。
数時間前、研究所を出るときの戦闘は後を引くようなものではなかったようだ。動作は少しも衰えない。
いける。これなら。私の願いは届かないものではないと、確固たる意思を持って確信できる。
行くぞ……全てを知るために!
――Mission0:complete――